日本が誇るギター製造の名門・フジゲン

長野県松本市に本社を構えるフジゲン株式会社は、1960年の創業以来、半世紀以上にわたり世界中のギタリストに愛される楽器を生み出してきた日本を代表するギター・ベースメーカーです。その高い技術力と品質は、特にジャズギター界において確固たる地位を築いています。

フジゲンの歩み

フジゲンは、「富士弦楽器製造株式会社」として創業し、1989年に現在の社名に変更されました。創業当初はクラシックギターの製造から始まりましたが、翌1961年には世界市場を見据えてエレキギター製造へと転向。エレキブーム全盛期には、国内外の多くのブランドのギターを製造し、OEMメーカーとしての地位を確立していきました。

世界のトップブランドを支えるOEM生産

フジゲンの最大の強みは、その卓越したOEM生産能力にあります。Ibanez(アイバニーズ)をはじめ、Fender Japanなど、世界的に名高いギターブランドの製造を手がけてきました。特に1982年に設立されたフェンダージャパンにおいては、フジゲンが筆頭株主として技術の中核を担い、日本製フェンダーの品質向上に大きく貢献しました。

1990年代からは自社ブランド「FGN」の展開も開始し、OEMで培った技術を余すことなく注ぎ込んだ高品質なギターを世に送り出しています。

ジャズギター界の巨匠たちとの関わり

フジゲンが製造するIbanezブランドのギターは、多くのジャズギタリストから絶大な支持を受けています。特に注目すべきは、以下の世界的ジャズギタリストたちのシグネイチャーモデルです。

ジョージ・ベンソン(George Benson)

スムーズジャズの帝王として知られるジョージ・ベンソンのシグネイチャーモデル「GB」シリーズは、フジゲンの技術力が結集された逸品です。

GBシリーズのラインナップ:

  • LGB300:ジョージ・ベンソン本人が「リトル・ジョージ・ベンソン」と命名し愛用するシグネイチャーモデル。フジゲンによって製作される日本製プレステージグレードで、オールスプルースのボディにヴィンテージ・イエロー・サンバースト・フィニッシュを採用。4.25インチの薄めのボディとフロレンタイン・カッタウェイが特徴的で、メイプルバック&サイドのフルアコースティック・ジャズボックスです。
  • GB10:1977年にデビューしたベンソンのシグネイチャーモデルとして最も知られる一本。スプルーストップとメイプルボディの組み合わせによる、クリアで丸みのあるサウンドが特徴です。カスタムフローティング・ピックアップ、エボニー指板、マザーオブパールとアバロンのインレイなど、日本の職人による丁寧な製作が光る最上位モデルです。

パット・メセニー(Pat Metheny)

現代ジャズギターの革新者パット・メセニーもまた、Ibanezとの長年のパートナーシップで知られています。

PMシリーズのラインナップ:

  • PM200:日本製の最上位モデル。プレステージ仕様のフレット処理とメセニー独自のネックプロファイルを採用し、卓越した演奏性を実現しています。
  • PM3C:2024年に登場した新モデル。1930年代のチャーリー・クリスチャン・ピックアップにインスパイアされたシングルピックアップ仕様で、ヴィンテージトーンを追求しています。

ジョン・スコフィールド(John Scofield)

コンテンポラリー・ジャズの重鎮ジョン・スコフィールドは、1981年製のIbanez AS200との出会いが彼のキャリアを決定づけました。「1981年のAS200のネックフィールが大好きで、いつもこのギターに戻ってくる。自分に合ったものを見つけたら、それを使い続けるんだ」と本人が語っています。

JSMシリーズ:

  • JSM100:スコフィールドが愛用した1981年製AS200を再現した日本製プレステージ仕様の最上位シグネイチャーモデル(2001年発売)。コンパウンドラジアス指板、Gotoh製ハードウェア、サイドジャックなど、細部までこだわった仕様となっています。
  • JSM10:JSM100のスペックを継承しながら、よりアクセスしやすい価格帯を実現したモデル。ネック材をニャトーに変更し、エボニー指板とSuper 58ピックアップは維持。ネックピックアップ用のトライサウンドスイッチやフロントジャックなど、オリジナルのAS200に近い仕様も採用しています。
  • JSM10EM:2024年に登場した最新モデル。ウォルナット指板にアクリルブロックポジションマーク、ジブラルターパフォーマーブリッジを搭載し、独自のキャラクターを持っています。

彼は約20年にわたってAS200を主要なギターとして使用し、数々の名盤を録音してきました。
特に2022年にECMレーベルからリリースされたソロアルバム『John Scofield』では、彼のキャリア初となるギター・ソロ・レコーディングとして話題を呼びました。

楽器製造を超えた多角的な事業展開

フジゲンの技術力は、ギター・ベース製造にとどまりません。木材加工と精密加工の技術を活かし、実に多彩な製品を手がけています。

高級オルゴールやミュージックボックスの製造では、楽器製造で培った音響技術を存分に発揮。また、和太鼓、そば打ち道具、カメラ部品、高級オーディオ機器、さらには自動車部品、高級ヘッドホン、時計、名刺入れなど、その製品ラインナップは驚くほど幅広いものとなっています。

この多角経営は、一見するとギターメーカーとしての専門性から離れているように見えるかもしれません。しかし、これらすべてに共通するのは「木材と金属を扱う精密加工技術」と「職人の手仕事へのこだわり」です。フジゲンは「木と語り合う」というコンセプトのもと、素材の特性を最大限に引き出す技術を様々な製品に応用しているのです。

ジャズギタリストにとってのフジゲン

ジャズギタリストがフジゲン製のギターを選ぶ理由は明確です。それは、精密な製造技術による演奏性の高さ、豊かな鳴りと音楽的な表現力、そして長年の使用に耐える堅牢性です。

特にIbanezブランドのジャズボックスやセミアコースティックギターは、アメリカの伝統的なギターメーカーに引けを取らない、あるいはそれを超える品質を誇っています。ジョージ・ベンソンやジョン・スコフィールドといった巨匠たちが、長年にわたってフジゲン製のギターを使い続けていることが、その品質の高さを何よりも雄弁に物語っています。

まとめ

長野県松本市の工房から世界へ——フジゲンは、日本の職人技術と革新的な姿勢を併せ持つ、真のギターメーカーです。OEM生産で世界のトップブランドを支えながら、自社ブランドでも高品質な楽器を提供し続けるその姿勢は、まさに日本のものづくりの精神を体現しています。

ジャズギターを愛するすべての人にとって、フジゲンという名前は、単なる製造メーカー以上の意味を持っています。それは、音楽への情熱と職人の技が融合した、芸術作品としてのギターを作り続ける、信頼のブランドなのです。

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